中学二年で初めて吉川英治「宮本武蔵」を通読して以来、わが座右の書である。
この吉川先生の作品がわが人生に与えたものは実に大きかったと思う。
本当に強いということは、どういうことなのか?
吉川「武蔵」はそれを一貫して突き詰めている。
これは果てしない精神修練の物語であり、厳しさを己に課すことの尊さを教える物語でもある。
武蔵の剣はひたすらなる厳しい人格的修練の上に築かれていった。
それは原作小説においても、宿敵佐々木小次郎との勝敗を分けることになった。
小次郎の天才的鋭利は、武蔵の全人格的重厚に敗れたのだ ―と 。
言葉で明記されずとも、武蔵と小次郎の人生描写を通じて、読者はごく自然にそれを感得する。
人生の価値は精神の修練にこそあると、我々は「武蔵」を通じて自然に悟らされる。 続きを読む