稜線から下りてくる秋(2)〜 10月の山々

11月も早くも中旬。札幌ではこの冬はじめて本格的な雪が降った。
窓の外は銀世界になったが、ついこの間の明るい秋の日を思い出しながら
10月の紅葉の旅を簡単にまとめてみようと思う。

***    ***

■「トナシベツ渓谷」の紅葉と渓流のアメマス

10月初めに夕張岳の東麓のトナシベツ渓谷を訪ねた。
高山植物で名高い夕張岳は、西側の大夕張コースが登山者に人気がある。
だが私はまだ登ったことのない東側の静かな金山コースに惹かれている。
今回はその登山口の偵察も兼ねて車を林道の奥へ走らせた。

静かな山の秋だ。沢がさらさら流れ、ひと風ごとに枯れ葉がゆらりと舞い落ちる。
登山口の駐車場には私しかいない。きらめく川辺にもみじの赤が燃えている。
三脚を立て、構図をとり露出を決め、あれこれつぶやきながら盛りの秋色を堪能した。

一時間ほどで車にもどり釣り竿を出す。胴長を履いて素人漁師に変身だ。
胸を躍らせて、本流に支流が合して泡立つ深い渕を狙って竿を振り込む。
小さい重りをつけたエサが、ポイントの深みにすっと沈むや、ぴゅっと引き込まれた。
コンマ何秒かの呼吸で手元を合わせる。ぐんと手応えが返る。「ニジマスかな?」
いや深みにグイグイ引き込むこの動きはアメマスのようだ、それも結構な大きさだぞ。
竿を立てて向こうが疲れるのを待ち、ゆっくり岸辺に寄せる。ウム、アメマス君だ。
30cm弱というところか、いい型だ。

この二年ほどで私もだいぶ釣りの基本を覚えて、坊主で帰ることはなくなった。
だが逃げようともがく魚を見て可哀想に思い、そこで止めてしまうこともある。
そんな奴でも、渓流釣り自体はとても気持ちよくて楽しいのでどうにもならない。
仲間には笑われそうだが、私は生まれつき甘ちゃん性質なのだろう。
この日もアメマスを三尾だけ釣って大事に持ち帰って美味しく頂いた。

■「チロロ岳」とパンケヌーシ林道の紅葉

そのトナシベツ渓谷からほどなく、山仲間と日高山脈のチロロ岳に登山をした。
前日の雨で沢の水量が多く、行動時間が足りなくなって登頂せずに終わった。
現地で解散したあと一人で登山口周辺の紅葉を探索したが、この林道も紅葉が素晴らしい。
特に夕方の光を浴びた樹々が川に映る具合がとても美しかった。

日高の山を登る場合、道はなく自然の沢がそのままルートになることが多い。
だから雨が降ると状況が一変し、易しい山も危険な山になってしまうのだ。
水量さえ少なければチロロ岳登頂もできたと思う。さて再訪の機会はあるだろうか。

■ 憧れの「鳥海山」に登頂(秋田県)

用事で秋田の横手に出かけたので、宿願の「鳥海山」登山を果してきた。
折しも台風19号が日本列島を北上中で、明日は暴風雨になろうかという日。
天が呉れた貴重な一日を活用して、憧れの東北の名峰を堪能した。

鳥海山は春夏の山スキーで有名だが、秋もいい。山麓の紅葉はちょうど見頃だった。
北海道の山と違う点はなんといっても広大なブナの森であろう。
登山中に振り返ると、モミジではなくブナの茶色っぽい赤が眼下一面に広がって圧巻だ。
その中にカエデの黄色や紅葉が混ざる、見慣れない光景が面白く感じられた。

鳥海山は篤い山岳信仰の霊峰である。それも北海道にはない。
山伏の修験道が明治時代に廃止されたためと思われる。
東北にはほかに蔵王や月山、羽黒山、湯殿山、飯豊などなど数多い霊峰がある。
山頂の祠や石塔だけでなく、登山道の途中にも信仰にちなんだ名前がついている。
氷の薬師、賽の河原、御田などだ。
日本人の信仰と山の密接な関係を、この山のあちこちに感じ取ることができた。

鳥海山麓の森にはツキノワグマが住んでいる。
一説ではヒグマよりもツキノワグマのほうが危険といわれる。
悠然としたヒグマに比べ、ツキノワは臆病で「すぐ引っ掻く」からだとか。なるほど。
まあどちらも人間に勝ち目がないことに差はなく、山中での突然の出会いは御免蒙るが、
離れたところからそっと見てみたいものだ。

(おわり)

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