稜線から下りてくる秋(1)〜9月の山々

この秋の紅葉の美しさは格別で、私は頻繁に山に入り、心を染めるような秋景色を撮ることができた。
先般の大雪山(黒岳から旭岳)に続き、東大雪(糠平、然別湖、音更山)を始め、遠くは知床・羅臼岳、また大雪の愛山渓〜沼ノ平、夕張岳東麓のトナシベツ渓谷、日高山麓のパンケヌーシ川、秋田県の鳥海山と充実した撮影行。記録整理の暇もないひと月を過ごした。どの撮影行もそれぞれ印象深い。

■東大雪/音更山は撤退、然別湖のナキウサギに会いにいく

私は東大雪の静かな山域が好きだ。訪れる人が少ないことは深刻な問題でもあるが、やはり静かな山はいいものだ。そこには何か別の時間が流れているような大きな感覚が残されている。

東大雪の森で

東大雪の森で

9月半ばのある日、十勝三股の十石峠から音更山(おとふけやま)を目指した。石狩岳に隣する音更山はコースが長いこともあり未だに登頂していない。この日も朝から雲が出て登るにつれて空が暗くなってきた。ついに稜線が白いガスに包まれたので、もはや写真にならないと思い峠で引き返し下山した。またしても音更山は遠い山となった。

撮影にならないため登頂せずというケースは多い。自分自身も登頂そのものにこだわらない。山と写真を一組に考えるうちに、いつの間にか自然にそうなってきたようである。
この日は音更山を諦め、翌日は然別湖方面に転進してナキウサギの撮影に没頭した。

■知床/羅臼岳

一週間後、私は知床にいた。釧路の友人と共に羅臼岳登頂を目指した。残念ながら靴の故障で登頂はしなかったが、久しぶりに知床の森を歩いて、かつて熊を探して何日も歩いた頃のことを思い出した。知床が世界遺産になり俗化して嫌気がさしてから足が遠のいていたが、こうして見ると自然は何も変わってはいない。変わったのは人間だ。自然を見る人間の心が変わったのだ。いつかまた昔のように、自然を畏れ敬う心が人々の中に戻ってくるはずだと私は信じている。

■大雪山/愛山渓温泉から沼ノ平を歩く

9月の終りに愛山渓温泉から沼ノ平へ登った。例年なら紅葉の最盛期だが今年はピークを過ぎかけており、沢沿いの樹々の華やかさにはどこか寂しさが混じっていた。
昼間の日差しの暖かさと夜の冷えこみの差を実感する季節だ。霜が下りるたび草や樹々の葉は色あせていく。青空と稜線の間に頭を出した新雪の旭岳は冴え冴えとして美しかった。

9月は夏の残り香を漂わせながら、夕陽の色は日増しに濃くなってゆく季節。
盛りを過ぎた寂しさに、ある覚悟のようなものが心に芽吹く季節。
(了)

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