■大雪山メインルートを歩く …標高2,000mの稜線漫歩
「お盆過ぎたらもう秋」という言葉がこちら北国では常套句だとはいえ、
青少年期を過した本州の残暑を思い出せない自分が未だに不思議である。
感覚とはかくも曖昧なもので、適応とはかくも強い作用なのかと。
さて今年の紅葉の始まりは少し早いようだ。先日大雪山のメインルートを歩いてみたところ、予想外にナナカマドの赤が鮮やかで、草紅葉もウラシマツツジも最盛期の赤色を呈していた。ただダケカンバの黄色はまだ色づきが遅いようで、赤・黄・緑の見事な大雪紅葉図にはもう少しかかるかもしれない。
今回は山仲間二人と、黒岳から入って旭岳へ抜ける大雪山縦走を試みた。それも最初と最後にロープウェイを使う、私にするとかなりリッチな計画である。
層雲峡から朝一番(6:00)のロープウェイとリフトを乗り継ぎ8合目に達すると、いきなり200mの急登が始まる(6:40)。体が温まりやっと調子が出る頃、黒岳山頂に到着した(7:45)。
- 黒岳への登り
- エゾニュウとナナカマド
- 黒岳山頂のにぎわい
■15年ぶりの黒岳(1,984m)と紅葉の山肌 … 石室と縦走路へ
黒岳山頂は人で賑わっていたが、石室の横を通ってお鉢平への縦走路に入ると静かな山旅となった。私は1999年以来の黒岳であり、お鉢めぐりも北側のコースは初めてだったので楽しみだった。そこに思わぬ美しい紅葉の景色が広がっていたのは幸運であった。日頃の行いはさほど良いとも思わないので、誰か他の人のお陰であることは間違いない。
桂月岳は割愛し、北の方向へ向かう。チングルマの綿毛と草紅葉、真っ赤なナナカマドに彩られた縦走路は朝露の光に満ちて華やかだ。
- ナナカマド
- チングルマの綿毛と草紅葉
- 朝露に輝く
■大雪山の名物「お鉢平」 … 9:10着 &休憩10分
お鉢平展望台から眺める景色はこのエリアの一大奇観だ。巨大なクレーターのように窪んだ火口の底の眺めは、硫化水素で白く変色した岩石と白濁水が支配する、まるで別の天体の風景を見るような印象を受けた。
- 縦走路から
- お鉢平展望台にて
- お鉢平展望台パノラマ
■北海道第二の高峰「北鎮岳」2,244m …分岐9:45ー山頂10:00ー分岐10:20
展望台の南に聳えるのは北鎮岳(ほくちんだけ)。縦走路途中の分岐で荷物を置いて山頂を往復する。登り15分、下り5分。やはり空身は早い。山頂はややガスがかかり眺望はお預けだが、北海道で二番目に高い峰ということで満足した。
- 北鎮岳山頂にて
- 北海道第二の高峰
- 来た方角を振り返る 手前から凌雲岳、桂月岳、奥が黒岳
■北鎮分岐から中岳分岐 … 中岳分岐着 10:55
本州からのツアーと思われる10名ほどの人々が我々の後から北鎮分岐に登ってきた。「五分休憩します!おにぎり食べる時間はないです」というガイドさんの声。そうか時間がないのか、飛行機の都合かな。忙しいね。今日は天気もまあ心配ないから大丈夫だ。2009年の夏にトムラウシで起きたツアー遭難事故がどうしても頭に浮かぶ。無理は禁物ぞ、自然は人間の都合では動いていない。
お鉢を左に見ながらどんどん歩き中岳分岐に着く。実に順調だ。雨模様なら旭岳をカットして中岳経由で下りてしまう手もあるが、幸い雲も薄い。これなら大丈夫だろう。
- 中岳の山頂標識とお鉢
- 右奥に旭岳が見えてくる
■ 間宮岳でお鉢とお別れ …間宮岳 着 11:15
お鉢の火口をぐるりと取り囲むように、いくつもの峰がある。
中岳、間宮岳、荒井岳、松田岳、北海岳…高さはみんな似たり寄ったりだ。
お鉢コース自体が既に標高2000mあるので、ゆるやかなアップダウンの稜線歩きを楽しむうちに、それらのピークも踏んで行けるのである。
その中の間宮岳(江戸時代の間宮林蔵の功績を讃えての命名、2,185m)から、我々はお鉢を離れて南西方向の旭岳へ向かう。
お鉢の奇妙な景色と人名のついた山々の紅葉を名残惜しく眺めたら、一気に旭岳への登り口に向かって100mを下る。
■旭岳から駆け下りる … 山頂 12:35 ー RW姿見駅 13:25
今日の最後の登りは、北海道の最高峰「旭岳」である(2,290m)。約230mのザラザラ砂礫地を登る。足下が崩れるので一歩一歩をゆっくり踏みしめて。
この前見た映画「ビヨンド ザ エッジ(Beyond The Edge )」を思い出す。エベレスト初登頂のヒラリーとテンジンの話だ。雪稜歩きのように確実にゆっくりと歩を運ぶうちに、気がつくとてっぺんに着いている。その感じが好きだ。
旭岳もその感じで山頂の人となった。30分で登れたのは案外の速さだ。
人が沢山憩っているのはさすが最高峰である。残念ながら霧に包まれて眺望はないので、我々は帰りのロープウェイの時間のこともあり一刻も早く降りることにした。いつもなら絶対にしないが、今日は特別に「駈け下り」たのである。荷物が軽いので膝も大丈夫だ。標高差500mを52分で下りきって姿見駅に着いた。途中で追い抜いたツアー登山の人に「おっ 下山部だ♩」と言われたのが耳に残っている。
- ガスの中の山頂にて
- さあ駆け下りるぞ
- 中程で振り返ると山頂が見えた
- ちょいとごめんよ
13:30のロープウェイで下りて、バスで旭川市街へ行く。途中で大雨が降って来たがもう安心だ。あと30分遅く山の上にいたなら大変だったろう。
旭川でレンタカーを借りて層雲峡に戻り、車を回収して札幌へ。帰宅は22時を回っていた。疲れたが順調な山行と紅葉の景色を楽しめたことは大満足で、今年の紅葉撮影に期待を膨らませている。(了)
- 姿見池と旭岳 雨雲がそこまで来ていた
- RW駅までの道も秋色