冬の日高地方は晴れる日が多い。
日本海を越えて吹き付けるシベリア颪(おろし)が
列島の脊梁山脈にぶつかり雪を降らす。
水気を降り落とした乾いた風が、太平洋側に吹き下りてくるのだ。
天気はよいが、そのかわり冷え込みは厳しい。
断熱効果を持つ雪のブランケットのない、むき出しの原野の寒さは
撮影中の夜を車で過ごす僕にはいつも厳しいものだ。
夜はエンジンを切り、登山用の羽毛寝袋に毛布をかけて潜り込む。
明け方は車の中でもマイナス10度まで下がり、呼気で毛布の襟元は凍り付く。
(道東地方での撮影は、さらに羽毛かけぶとんを必要とする)
そんな状況だから朝は寒さで4時頃目が覚める。
懐に抱いて寝たガスカートリッジ「コン郎」をセットして
湯を沸かす。いつもエンジンをかける瞬間はどきどきする。
お年寄りの車だけにバッテリーが気にかかる。
ぶるぶる震えながら無事に始動したときの安堵感といったらない。
*** ***
窓ガラスの内側に凍り付いて美しく広がる結晶が消える頃には、
熱いコーヒーとフライパンで焼いたパン、目玉焼きで朝食だ。
今日も、神様との根比べの一日が始まった。
(写真:愛嬌者のコミミズク)