大雪山の林道を歩く「忠別林道 その1」

秋にかけてお預けになっていた課題をひとつこなすことにした。

大雪山の東側は石狩川の源流域で、昔から林道や作業道が山裾に延びている。
現在この地区のほとんどの林道が、豪雨による土砂流失などの災害で通行止めのままになっているが、私は以前からこれらの道を訪ねてみたいと思っていた。
中でも、登山道とセットで放置されたままの「忠別林道」はその状況を確かめる価値があると考えたのである。

忠別岳シビナイコース

忠別林道は忠別岳へ直接登る唯一の登山道・旧シビナイコースへのアプローチ道でもある。
ゲートから5km入ると登山道の入口があり、公には十年以上前に廃道とされたがその後も細々と利用されてきた。

忠別岳は大雪山最奥の縦走ルート上にあり、トムラウシ山と表大雪の中間点にあたる要衝だ。
このシビナイコースがもし復活すれば、天候急変や事故時のエスケープルートとして非常に有益であろう。この登山道の使用可能性を調べるため、まずはアプローチの忠別林道を歩いてみた。

忠別林道ゲート

忠別林道ゲート

◆ 忠別林道を歩く

層雲峡本流林道を進み、黄色い鉄のゲート前に着いたのが朝8時半。ごつい北欧製の鍵がかかっている。支度をして9時きっかりにゲート横から歩き出した。落石が放置されて草刈りもされていないが、思ったほど荒れてはおらず歩くのに支障はない。

草が生した林道

草が生した林道

この日は暑かったせいか、いくばくも歩かないうちに荷物の重さがこたえてきた。
登山口を見つけたら行ける所まで忠別岳を目指してみようと思っていたので、山中一泊の装備をしてきたのだがしかしこの先がどうなっているか分からないことを考えれば荷物をここに置いて行きたくもなる。だがもし登山道が健在ならば逆に後悔するだろう。全部背負っていくことにした。登山道がなければ適当にテント泊だ。食糧はある。シビナイ沢でイワナでも釣ればOK…

林道は徒歩なら通行可

エゾシカ親子

エゾシカ親子

ゆるい上り道を静かに歩いてゆくとエゾシカの親子に出会った。彼らもここで人に会って驚いただろう。しかし最近のものらしい車輪跡もあったから、営林署の車が時々視察に来るのかもしれない。
一時間ほど歩くと道路の崩壊現場に出た。なるほどこれはひどい。
沢へ落込むように3m幅で土壌が抉り取られて道が寸断されていた。徒歩なら問題はないが車はここまでだ。ほどなく二つ目の崩壊地に出たが道の右側が細長く崩れて、やはり沢の斜面に落ちていた。

最初の崩壊地

最初の崩壊地

この辺から林道の草生が急に多くなった。ミヤマハンノキの若樹が道の中央に群生していたり、フキが道路一面に群生していた。いずれもかき分けて進むと15mほどでまた道が現れた。

やがて小さな水音がして、道はシビナイ第一沢をまたぐ。小さな流れだ。気持ちよく開けた場所に出て青い空を仰ぐ。立派なダケカンバが一本まっすぐに立っている。

そのあとは背丈まであるチシマザサの薮が待っていた。ひどく密生していて先が見えない。
30mくらいを漕いで突破するとまた歩きやすい林道が現れた。このようにスポット的に障害が待ち受けているようだ。

鉄道の廃線跡もそうだが、道路の跡というのは草が生えにくい。強い除草薬を使っていたのだろう。それでもこれだけ濃く茂るチシマザサの生命力はなんと強いことか。

アキノキリンソウやウツボグサが咲いている。また水音が聞こえる。大きなフキの葉の間に見える小さな流れがシビナイ沢だ。

登山口の状況を確認する

沢を過ぎてすぐに開けた分岐に出た。林道ゲートから1時間40分、これが忠別岳登山口だった。
ネットの情報通り誰かが積んでくれたケルンを見て、しばし密かな喜びに浸る。

荷物をデポして偵察を開始する。草かぶりのない明瞭な作業道がゆるやかなS字を描いて続いていた。正面には樹々の上に遠く高根が原の稜線と白い雪渓が見えている。もし登山道が健在ならば、あそこまで歩いていけるはずだと遠い目になる。

やがて作業道は狭くなり笹薮に突き当った。付けられた赤テープは左の小川を渡るように導いていた。ひとまたぎで渡れる小川の対岸にも赤テープがある。情報によればこれが山道の入り口らしい。だがその先はすごい笹薮だった。前方に赤テープが見えるが踏み跡は消えている。この笹薮も30mくらいで終わって登山道が現れるのかも知れないが、前進はためらわれた。それなりの準備をして時間をかけなければ無理と判断し、再訪を期して引き返した。

林道は山の世界への入り口

今回幸運にも旧シビナイコースの入り口を確かめられたので、再訪が楽しみである。
晩のオカズにオショロコマを三尾釣ってこの日は終了。ついでに他の気になる林道の入り口も見て回った。

「音更沢林道」「ヌタクヤンベ林道」「石狩沢林道」…どれも魅力ある深山への道だが、
通行止めで復旧も難しい状況が続いているのは残念だ。

音更沢林道から音更山へ向かう登山道はもう消滅しているらしいが、興味はある。
石狩沢林道は石狩岳への沢ルートと組み合せて是非歩いてみたい林道だ。
ヌタクヤンベ林道はやはり忠別岳への沢登りルートになる。途中に魅力的な沼があるようだ。

 

大雪山の懐は広い。神秘に包まれる深山幽谷の世界への入り口となるこれらの林道を、
これからも歩いてみたいと思っている。(了)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください