TPP楽観論に横たわる無責任と臆病風

101007-D1-208

何の結論も出さずにいた野田首相が ようやく何か意思表明すると思ったら「TPPに参加する」だそうな。
実現すればわが国はまた一歩大きく損なわれることになろう。


TPPはこれまでの経済協定の概念とは質を異にする。
自由化の対象業種は24もあり社会の隅々まで外国の参入を招くだろう。
それは取り返しのつかない大きな社会構造の変化を意味する。
新たな変質を迫られる我々はさらなる苦しみに投げ込まれるわけだ。
国はやみくもに開けばよいというものではない。

【食料自給力は国防力だ】

TPPの基本は関税の完全即時撤廃だ。
日本の農業が安い外国農産物流入により大打撃を受けることは誰もが認めている。
そのうえでメディア報道は日本の農業のためにもいいことだという。
競争することで「鍛えられて」農業が強くなるというのである。

理屈の筋は分かる。だがはっきり言って無責任の極みだと私は思う。
どこの世界に自国の食料生産を外国と競わせて強化しようなどと思う国があるか。

農業を経済効率論で捉えてしまう人にはよく考えて欲しいと思う。
国の生命線は、外国貿易に依存しないところで確保するのが当たり前だ。
農業VS工業という報道の仕方は間違っているし、国防上も大変危険である。

【人の流入は取り返しがつかない】

TPPの特徴は(農業を含む)24もの対象業界があることだ。
冒頭に述べたように、年金や医療・医薬、保険、各種サービス、建設といったインフラ、
公共基礎的分野まで外国企業との競争に曝される。外国人労働者も大量に入ってくる。

その一方で、日本から外国に進出して利益になるような要素はあるかといえば
他の参加国は日本よりも著しく経済規模も小さく、ほとんどメリットはない。
(他国はシンガポール、チリ、ブルネイ、ニュージーランド)
唯一比較可能な大国アメリカには、当然日本有利の話は期待できない。

つまり日本は外国から一方的に入り込まれるだけで、その逆はない。
かけがえのない伝統の社会システムを失い呆然と立ち尽くすのみだ。
先人の血涙で守って来た日本社会の土台が、お子様リベラル政権の
性急で無責任な選択によって「ぶち壊され」ようとしている。

【製造業の輸出は伸びない】

現下の輸出不振の原因は「円高」にあり、TPPの関税撤廃はほとんど無意味だ。
逆にアメリカや他の参加国からの安物流入で国内産業は無惨に淘汰されよう。
内需は低迷しデフレは悪化、失業は増え景気はさらに落ちるだけである。

TPPで日米が対等な相互利益関係を築くなど空論中の空論である。
国際社会の力関係の現実と歴史的事実に照らしてありえないことだ。
推進論者には、TPPであらゆる防御をはぎ取られた日本の社会が
米国他に容赦なく荒らされて変形していく姿を見ようとしていない。

その意味でTPPは論理の経済問題ではなく心理の政治問題だ。
第三の開国など冗談にもならぬ。黒船・大東亜戦争に続く第三の敗北でしかない。
よく聞かれる「今に始まったことじゃないし仕様がないじゃん」式の諦観は
もう通用しない。

なぜ野田首相は11月APECまでのTPP参加表明を急ぐのか。
10月28日付の毎日新聞によれば、公式文書に出た政府の本音は
「その時期がオバマ政権に一番喜ばれるから」だそうだ。
国家存亡を左右する決断をアメリカのご機嫌取りとしか感じていないのか。
そんな○○で◎○×な政府は○○△してしまえと叫びたくなる。

【臆病風になびく日本のリーダーたち】

ネット配信の「日経ビジネス」の見出しに毎日のように並ぶ論調がある。

「合理的に考えてTPPには参加するしかない」
「国際的な枠組みに乗り遅れるな」
「参加しないと韓国に差をつけられてしまう」

これが日本をリードする経済界の意向なのだから情けない。
日本は外国に合わせて生きてさえいればよいという萎んだ発想にうんざりする。
自立して我が道を確立する気概はどこにもない。これを称して臆病者という。
長いものに巻かれるにしても、その長さの検証もろくにしないで
枝葉の理由をつけてテキトーに決めようとする。称して怠け者という。


江戸期のように自主的に貿易をコントロールする気構えを思い出そう。
自由貿易は絶対の正義ではないし、保護貿易も時には大事だ。
状況に応じて主体的な判断で選択するべきなのだ。

そもそもTPPは苦境のオバマ政権が企むひとつの経済戦略で
これを世界標準などと誤認してすがりつくなど愚劣の骨頂でしかない。
初めから参加を前提で議論している時点で「戦わずして既に負けている」のだ。
こんな卑屈な政治屋・経済屋を私たちは如何にしても排除していかねばなるまい。


自らの意志を捨てて他者(平和を愛する諸国民)に依存した奴隷的生き方。
占領憲法(現憲法)に謳われるこの精神が生んだ数々の弊害が今露呈しておりTPPの扱い方にもそれが現れている。

将来に向けてこれ以上の恥を積み重ねるのは堪え難いことである。
目覚めよ日本国民! 自立せよ日本!

(写真:ミソサザイ)

TPP楽観論に横たわる無責任と臆病風” に1件のフィードバックがあります

  1. 清水の山内

    TPP参加に賛成する人たちの意見にどうしても違和感があり、反対派の側の論文を読んでみました。やはり、我々がマスコミを通じて目にする情報だけでは、判断に必要な基本的な情報が欠落していました。中野剛志氏の論文が参考になります。
     「国家観を欠いた空虚なスローガンに踊らされ本当の姿を見ようとしない」というのは、大変危険なことですね。亡国は結局、我々日本人の滅亡につながってしまいます。
    (11/11/6 10:17)

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