東大雪に惹かれて

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■ 冬から春へ

今年は東大雪の糠平、幌加、然別湖を中心に撮影に入っています。
一年を通じて人気の大雪山の中で、比較的静かなこの地域が僕は好きです。
太古の姿を感じさせる森や湖沼。過ぎ去った時代を静かに伝える鉄道橋跡など、
渋く深い魅力に溢れたこの東大雪で、何に出会えるか楽しみです。

本州では桜と陽光の春ですね。北海道はまだ雪の日がありますが
西高東低の冬型は減り、降り注ぐ日差しが確実に野山の雪を薄くしています。

2月には賑わった糠平湖の氷上ワカサギ釣りも、もうすっかり姿を消しました。
然別湖コタンの名物、氷上露天風呂も三月で終了、春の準備が始まっています。
去りゆく純白の季節を惜しみつつ、輝く青葉の季節を待ち望むうれしさです。

■ 山々のこと

糠平湖から見える二大雄峰は ニペソツ山とウペペサンケ山。
静寂の森の中で、ふと見上げる青空に輝く純白の峰は、荘厳という言葉が相応しい。

ニペソツ山(2013m)は西暦の「標高年」を迎え、登山愛好家が集まりそうです。
僕も10年前秋のニペソツの頂上で撮影しました。カメラと三脚が重くて難儀したことと、
付近の岩場がナキウサギの楽園だったことが懐かしく思い出されます。
ウペペサンケ山にはまだ登ったことがありません。
現在土砂崩れで登山口への林道が通行止め。復旧を心待ちにしている山のひとつです。

東大雪の山といえば石狩連峰(石狩岳、音更山、ユニ石狩岳)が代表選手。
この山域は、十勝と石狩を分ける大きな分水嶺です。
北海道第一の大河石狩川はここに源を発し長い旅の末に札幌・石狩市で日本海に注ぎま
す。そしてNo.2の十勝川は、やはり音更山から出た音更川と合流して太平洋に注ぐので
す。大地を形作ってきた悠久の営みを、今も目の当りにできる東大雪は素晴らしいです。

■ 自然というものの捉え方

やや逆説的ですが、個々の人間の都合や損得とまったく関係ない冷厳さが、人間にとっての自然の本質だと思います。自然は決して優美ではなく、むしろ非情なものです。
その自然にいかに適応して生きるのか、その答を求める努力がつまり宗教的思想であり、また世界文明の発展の歴史だったとはいえないでしょうか。

たとえば西欧では、人間は自然と対峙し支配するものという約束があります。
聖書にいう神がお造りになった万物の霊長「アダムとイブ」のお話です。
それが長い歴史の中でいつしか神が後退し、人間の理性を最高と考える科学合理思想に変
わってきたのです。今のヨーロッパでは神を本気で信じる人は半分もいないと聞きます。
この科学合理主義は西欧の優越を支えましたが、効率重視の非人間的な発展が貧富の差と社会不安を拡大させ、共産主義の台頭、遂には二度の世界大戦の主因となったとも言われます。

その点アメリカは、ヨーロッパの宗教の俗化堕落を嘆き反抗する人々により、新天地で理想の宗教国家を目指して作られました。多様な動機はあっても彼らには共通の価値、敬虔な宗教心があり、その心軸の統一こそがアメリカを今もって世界の覇者たらしめている国力の基盤だと僕は思います。
人は、心に神様をもっているかどうかで、強くもなり弱くもなるのです。

話が脇道にずれたようです。申し上げたいのは、東大雪には日本人のこころの琴線に触れるものがある、ということでした。

■ 日本人のこころ

自然はときに厳しく冷たい。それを知ってこそ人は謙虚になる。
それを忘れた西欧と同じ穴に、遅れて日本もハマっている。
日本人は本来、自然を敬い畏れることで、己の欲望を律してきた民族です。
嫌なことや辛いことも、それが自然なことなら受け入れる心を養ってきました。正直な人、生き物に優しい人、いちいち損得を考えず情けや努力を惜しまぬ人たちでした。

その美しい国柄はどこへやら、利己的で卑小な者ほど得をするセコい世が続いています。

僕は戦前の古書を読むのが好きです。そこに当たり前に描かれるかつてのわが国の姿に驚かされます。素直に当り前に神様を敬い謙虚に生きていたこの美しい人々は、いったいどこに行ったのだろうかと。

■ 祈るしかありませんが

糠平町に五月オープンの「ひがし大雪自然館」。願わくは観光客誘致の欲は捨ててほしい。目を驚かすデジタル趣向や、心に響かない形式的で陳腐な施設はもう要りません。
大自然の怖さと美しさを、理屈や科学知識云々から離れて、自由に感じさせてほしい。
己の力を試したい、己と静かに向き合いたい、そんな真摯な人に居心地のよい、人間精神の自由を守る場所であって欲しい……

東大雪の素朴で飾らない雰囲気は、こんな思いを胸に沸き立たせます。

世界遺産・知床は厳重な管理の下で一般人立入禁止になってしまいました。

今や大雪山は、私たちが自由に己を磨き鍛え高めていくことのできる、残された貴重な場所なのです。

東大雪に惹かれて」への4件のフィードバック

  1. 田中良弼

    安田さんお元気でご活躍何よりです。
    いつも物語といての自然を拝見しますが、学がない私しには難しいです。
     今年も2月10~14に更別の霧氷撮影をメインに然別湖・糠平湖へ行き、自然の素晴らしさを満喫しました。ひがし北海道は何度行っても新しい発見に感動します。更別では-20℃の世界で幻想的な風景に感動・然別湖ではネイチャーセンターの人々のコタン村造りの苦労・糠平湖では全面結氷の湖面が水力発電で低下し、キノコ氷の発生また昔の竹筋のコンクリート製橋梁まで行ってきました。この自然の素晴らしさを後世の人々に残したいものです。
    (13/4/15 14:43)

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    1. やっさん 投稿作成者

      田中様本当にお久しぶりですね。お元気そうで何よりです。然別湖コタン村に私も行きました。日が落ちたあと蒼い氷上にイグルーの灯りがほの暖かい光で浮んでいたのが印象的でした。昔の橋梁もそうですが、実に自然と溶け合った風物ですよね。昔ながらの人の営みが愛おしく感じられます。拙作ブログは書き手の力量不足で乱駄文が多く、いつも反省しきりですが、時々覗いて頂けると嬉しいです。どうぞお元気でお過ごしください。
      (13/4/16 09:53)

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  2. 清水の山内

    日本の自然は、多様で豊かですね。私たちが生きていられるのも、自然の恵みあってこそ。自然に沿って生きる日本人の生き方を、後世に引き継いでいきたいと思います。知識として教えるのではなく。
    (13/4/6  17:04)

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    1. やっさん 投稿作成者

      そうですね。この美しい四季に恵まれた国土を、感謝の祈りではなく科学で管理できるという考えは日本文明とは異質のものですし、今や欧米のやり方は世界的に限界を迎えていますね。
      思えば「今の子供たちは自然の中で遊ぶことができず可哀想だ」と言われつづけて何十年たつでしょうか。そろそろ本気で自然信仰への回帰が起こる、そう私には思われます。
      「金と経済の都合」が優先される視野の狭い卑小な価値観が、これまでになく広範に真摯に批判され反省される時代が来るでしょう。それが生き物の自然な流れであり、鬱やいじめに苦しみ疲弊した人々の姿はその前兆のように思えるのです。
      (13/4/8)

      返信

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