野生の生き物たち」カテゴリーアーカイブ

春までおやすみ

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サシルイ川の秋(知床)

「もう12月になってしまったのか・・・」
季節の移ろいの何と確かなこと!
ささやかな個人の想いや感情の起伏に関わりなく
確実にやってきて、そしてあっさりと去ってゆく。

「あはれ今年の秋も往ぬめり」

一生の内あと何回、秋を迎えることができるのか。
そう思うとやり残したことばかり頭に浮かぶ。

先月から数えて知床での撮影は3回行った。
主な目的は川に現れるヒグマであるが、最近はいい場面に
出会うことがない。

今年はやむをえない事情で撮影に入る時期を逸した。
目指した川にはもうサケの姿もなく、漁師さんに尋ねてみると

「もう魚(の時期)も終わりだよ、今年は少ないなあ。
熊も食べもんがねえし、もう山奥に入ったんじゃないかな」

そうか、もう冬籠りの準備に入ったんだねえ。
子を産む母熊は少し早目に穴に入るのだけど。
今年はオスもみんな早く寝ることにしたのかな。

また来年、元気な顔を見せておくれよ。
くれぐれも町の方に出てきて撃たれないように・・
春になったら山に逢いに行くから、待っていて欲しい。

マガンの秋

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宮島沼が大賑わいの季節である。

美唄市にあるこの池は、シベリアから渡ってきたマガンたちが
本州へ渡る前にひととき羽を休める一大拠点だ。
多いときは6万を超えるという数が集結する。

ここ数年やや減少気味だとも聞くが、どうなんだろう。

このたくさんのマガンたちが、
夜明けとともに一斉に湖面から飛び立つ様はまさに壮観だ。
幾たびかの鳴き交わしが盛んに行われた後
羽ばたきは突然起こる。

数千、いや数万羽が黒い雲のように水面から湧き上がる。
轟音は天まで届かんばかり
黎明の空気を振るわせるその響きは
スサノオの天の詔琴もかくやと思わせる。

興奮の一大イベントであるが、いつもこの一斉のねぐら立ちが
見られるとは限らず、ちょぼちょぼと小分けになることも多い。

(脅かすと一部が慌てて飛んだりして乱れるので、なるべく
近づかずに観察しましょう。)

小学生の頃、「大造爺さんと雁(がん)」というお話を国語の教科書で読んだのを覚えている。
羽の一部の白い模様から「残雪」とあだ名されている賢いリーダー雁と、猟師の大造爺さんの、毎年繰り返されるかけひき合戦、頭脳戦。

ある年、連れ合いの雌の雁が怪我をして動けないのを守ろうとして
大造爺さんの前で逃げずにじっとしている「残雪」を見つけた爺さんが
「よきライバル」を撃たずに逃してやるという、いい話だったと思う。

マガンの季節にはこの話を思い出して懐かしい気持ちになる。
食えー、食えーと大声で鳴いているマガンだが、なんだかホロリとして
食指を動かす気持ちにはなれそうもない。

十勝岳のキタキツネ

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白金温泉付近のキャンプ場で迎えた朝は
小雨が上がった雲間から青空が見え隠れ。
秋風の冷たさの中、日差しのぬくもりにはまだ夏の名残り。

さわやかな大空に弧を描くのは 三羽のトビ。
上富良野の黄金色の田や、収穫の終わった畑を
上空から餌を探しているのだ。

昨年11月の雪山研修以来、約一年ぶりの白銀荘で
お湯を頂く。連休中で洗い場の混雑はすごい。

ここの露天風呂の雰囲気が好きだ。
39、44、46度Cの三種類の湯がある。
真冬なら46度にも入れるが、今は39度が精いっぱいだ。

白銀荘を後に、十勝岳温泉凌雲閣へ。
十勝岳、上ホロ、富良野岳への登山客で賑わっている。
昼過ぎなので、早くも下山してきた人たちだろうか。
今日みたいな天気は絶好の登山日和だ。
さぞ気持よかったろうな。

駐車場にキタキツネが現れ観光客の耳目を集めている。
餌をやらずに写真だけ撮る。キツネはもちろん餌を
期待しているものの、微妙な警戒心は捨てずにいる。

***  ***  ***

人間と野生動物の距離についてはいつも考えさせられる。
「餌をやるとキツネは自活できなくなる」というのは通説だが
「夏は餌をもらって冬は自活!」というしっかり者は確かにいる。

思うに
餌をねだる動物を遠ざけるという優しい配慮の本質は
人の子供の躾(しつけ)をそのまま当てはめるようなもので
人の自己満足に過ぎないのではないか。

そもそも野生を失うとは、一体どんな状況を指すのだろう。
彼らは自分なりにいつも真剣に生きている。
夏に餌を誰からもらおうが、冬には当たり前に自活する。
それが野生ではないだろうか。